まだ福岡で勤務医時代のことだった。懇意にしていた薬剤卸会社の人事部長Aさんから、
あるボヤキを受けたことがある。
「先生、不思議ですが、若い頃、いつも上役の批判をしていた人間にかぎって、
歳をとったら、こんどは自分が若い頃に言ってたことを、すっかり忘れるんですよ。
あの頃、おまえは、こう言っていたじゃないか、と諭すんだけど、
それが、なかなかわかってくれなくてね」
当時よりは、たくさんサラリーマンを診るようになった。確かに、
メンタルに問題を抱えた社員ほど、上司や会社の批判や悪口を言うように思う*
だが、このような社員が後年、40代、50代になったとき、どうなっていくのか?
という継続調査は聞いたことがない。 *悪口は症状です
上記のAさんはじめ、最近の会社の内情を聞くと、どうも、
若い頃にメンタルを患い会社の手を焼かせた社員ほど、
中高年以降になって、新人や後輩に仕事を教えない傾向があるという、
イジメとまではいわないが無視や無関心の傾向を聞く。
どうしてこうなるのか、わたしにもわからない。余裕のなさがそうするのか。
普通に考えると、若い頃に苦労したから、きっといい上役になるだろうな、と
周囲は期待するのだが、案外、そうでもない。
行きつくところは保身である。読んで字の如し、自分の立場を守るためである。
だが、すべてのメンタル経験者がそうではない、中には職場で尊敬され重きをなす人、
経験を活かし人事畑で活躍する人、起業して成功した人など、
たくさんの成功例もある。
成功者に共通するのは、若い人を教え、育てる姿勢をもつことだ。
そのなかで累々と失敗をかさね学んでいく。裏切られたり、理不尽さに出会うことは、
人の世では常だ。そこで凹むか、勇気をだして乗り越えるかが分かれ目だ。
だからこそ、療養中の出会いと過ごし方には自然とうるさくなる。
じっと我執にこもるようでは、後年が心配だ。
まず旅に出よう、人の生(なま)の生活をみて歩こう、そうしたら、
いま、悩んでることなんて、ちっぽけなことだったと気づくから。