今日は、がん患者とストレスの関係についてふれてみたいと思います。
Greensteinという統計学者が、ガン細胞と宿主(個人)の健康について調べた法則があります。
“がん細胞は宿主をガン細胞と似た方向に変化させ、その代謝をガン細胞の増殖に都合の良い方向に向かわせ、タンパク質を宿主から奪取する”
実際に、わたしの外来を訪れてくださる、がん患者さんの大半は、貧血と低アルブミン血症を持たれており、わたしの知りうる限り、がん細胞は、貧血や低タンパクなど栄養状態の悪い臓器や固体に好んで発生し、また一旦発生すると、その固体全体を、貧血と低タンパクに向かわせます。
そのため、どんながん患者さんであっても、がん病巣がある限りは、その自覚の有無を問わず、常にストレスを抱えており、そのことが、大脳皮質や辺縁系、視床下部へと続くストレス刺激となって、副腎機能を持続的に亢進させ、ついには、患者さんを消耗状態に追い込んでいきます。
このことは、実際に、がん患者さんの採血をし、血中コルチコステロンやカテコーラミンなどの副腎ホルモンを測定すると、異常高値になっているので容易に確認できます。 また、がん患者さんの尿中副腎ホルモンの排泄量も健常者を大幅に上回り、持続的ストレスによる副腎ホルモンの分泌亢進が続いていることがわかります。
外来で丹念に患者さんのお話を聞くなかで、うつと不安のある患者さんや、余命がないと信じる患者さんは、次第にお亡くなりになられていきます。 つまり、うつ病になると、がん腫が増大するのです。 このことは、 ≪副腎でのステロイドの分泌増大 ⇔うつ病≫ のメカニズムからも明らかでしょう。
逆に、どんなものでもいい、“これをやっていれば、がん患者は死なない” という信念を持たれている患者さんは、いつまでたっても元気です。
このように、がんとメンタルへルス、うつ病には深い関わりがあるのです。
3人に1人が、がんで亡くなられる現状があります。 しかし、例え治らない病気であったとしても、元気な状態を維持することはできるはずです。 あるいは、癒しを与えることは医療にはできます。私もしくは、私の家族ががんに罹ったことを考えると、医療はもっと寿命を延ばすことや、QOL(生活の質)を上げることに目的を置くべきではないかと思います。 “溺れる者は藁をも掴む” の想いで来られる患者さんに、生きる希望を与えることが今後の医療のテーマではないかと信じているのです。